みなさん、こんにちは。
以前書きましたとおり、アメリカ便りは中途半端ですが第27回で終了です。
まだまだ書きたいことはあったのですが、この原稿をお渡ししていた病院が閉院になったためです。
書きためていたものはここまでですが、これからは思い出しながら書き足していきたいと思います。
次回のブログからはやまさきファミリークリニックのお知らせなど書いてゆく予定です。
アメリカ便り27:自分の最期は自分が決める
皆さん、こんにちは。ホノルルの山前です。
今回は事前指示と生前遺言について述べたいと思います。
仕事柄私の患者さんは皆お年寄りなのですが、患者さんを診察する上で重要なことのひとつに事前指示と生前遺言の確認があります。
何だそれ?と思われる方が多いと思いますので少し説明させていただきます。
1つ目の事前指示とは英語でアドヴァンス・ディレクティブと言い、自分が意思決定能力を失った際に誰が自分の代わりに意思決定をするのか、いわゆる後見人をあらかじめ指定しておくものです。後見人には医療に関する後見人と財産に関する後見人があり、私たち医師が確認しなければならないのはもちろん医療に関することです。
2つ目の生前遺言は英語でリヴィング・ウィルと言い、自分が命の瀬戸際に立ったとき、どこまで延命治療をするのかを元気なうちに決めておくことです。
アメリカでは1960年代の後半から、自分の最後を医療者にどう委ねるかを自分で決めることが重要なのではないかという議論がなされ、1980年代の中盤にアメリカ統一法として制定されてから今日に至るまで全50州で州法として制定されています。
このような法整備がなされた背景には尊厳死の理念があります。回復する見込みの無い、昏睡状態の患者さんを闇雲に機械で生かすことが果たして人間らしいことなのか、自分らしく自分の望むような死に方ができないのか、そんな疑問が発端だったのです。
例えば80才のご老人が心肺停止で発見され、救命救急に運ばれたとします。もし、事前指示と生前遺言が無ければ私たち医師は何でもします。心臓マッサージを開始し、挿管(喉から肺に管を入れること)をして人工呼吸器につなぎ、できるだけ多くの点滴をつないで強心薬、昇圧薬、抗不整脈薬等を注射します。
運良く心臓が動き出しても不整脈が出ていれば今度は電気ショックで不整脈を止めます。何とか、心拍が確保されると集中治療室に運ばれますが、いったい退院までどのくらいかかるのでしょう?
骨粗鬆症のある高齢者に心臓マッサージすれば肋骨が折れます。治療が長引くほど寝たきりになるます。意識が戻ったとしてもそれまでの生活には戻れないでしょう。胃に管を入れなければ食事もできなくなります。
そうしたことを患者さんと話し合うことで患者さんは万が一のことが自分に起きた場合、どう医療者が対処するか決めるのです。
ハワイ州では医師がカルテに記載さえしていればそれは法的に有効です。もし、救命救急に心肺停止で運ばれた80歳の患者さんが生前遺言を持っていて、延命治療を拒否していることが分かっていた場合、静かに死亡宣告がなされ、患者さんは体に傷をつけることなく、ご本人の希望通りに自然に任せた人生の最後を迎えるのです。
重要なのは、生前遺言はいつでも変更が可能ですし、延命治療をしないということは一切の治療をしないということではないのです。
肺炎になったら肺炎の治療はしますし、心筋梗塞になれば治療はします。
あくまでも回復の見込みが無い時だけの話です。
自分の最後は自分で決める。当たり前のようで実はまだ日本では当たり前ではありません。
日本の医師たちは患者さん本人の意思よりも家族の意思を尊重する傾向にあります。後々の問題を嫌うからでしょう。
アメリカでは仮に患者さんの意思に従い延命をしなかった場合、後から家族がなぜ延命しなかった!と訴訟しても医師は法で守られているのです。
日本には財産を管理する後見人制度はありますが、健康、医療に関するこのような法整備が遅れています。
法整備に向けた動きはあるようなので見守っていきたいと思います。
これを読まれている方も是非元気なうちに自分の意思をご家族、主治医にお話してください。
あなたらしく人生を最後まで過ごすために。
山前浩一郎
ホノルルの自宅で遭遇したかたつむり。当時使っていたスマホ(パーム!)と大きさを比べてください。
これ以外にもトノサマガエルの王様みたいなのや、ヤモリもよく遊びに来ました。