やまさきファミリークリニック 院長ブログ

尼崎市のやまさきファミリークリニック – 内科・老年内科・糖尿病内科・小児科・アンチエイジング・渡航前ワクチン/英文診断書・治験

アメリカ便り13 米国臨床留学 家庭医療@ピッツバーグ大学

アメリカだより13:病棟リーダーとなった2年目(2005年8月)

 

皆さん、こんにちは。ピッツバーグの山前です。

先週の土曜日に初めての研修医2年目としての入院チーム研修が終わりました。
1年目のインターンと違いかなり忙しく感じた4週間でした。2年目の研修医は1年目を監督する立場にあり、彼らのカルテを毎日チェックし、患者さんの状態について毎日議論し、教育しなければなりません。
その他にも病院に入院してくる家庭医療科の患者さん全ての初期管理をしなければならないので1年目の方が遙かに気楽でした。そんな短いようで長い4週間の締めとして土曜に当直がありました。

一日中ポケベルが鳴りまくり壊したくなる衝動に何度駆られたか分からないくらいに忙しい日でした。そんな中、昨日ICUから一般病棟に戻ってきたばかりのBさんのご家族が病状を聞かせてもらいたいと担当看護師からポケベルで呼び出されたのです。
Bさんは88歳のとても感じの良い女性。元々糖尿病を患い、少し認知症があります。今回息苦しさで入院してきました。調べてみると広範囲の急性心筋梗塞が見つかったのです。糖尿病を長く患っていたために胸痛がなかったのでしょう。入院翌日に急激な血圧低下と酸素飽和度低下のため、ICUに運ばれました。
このときご家族は出来ることは全てして欲しいというご希望でした。しかし高齢であるため侵襲的な治療をせず薬だけで治療すると循環器科が判断したため、血圧を維持するドーパミンを点滴しながら家庭医療の病棟に戻って来たのです。

直接の主治医ではなかったのですが、カルテを読み状況を把握しご家族との話し合いに望みました。
かなりの重症であったこと、今後起こるであろう事をあらかじめICUで医療倫理チームから説明されていたご家族は、当初の方針は変更し、挿管、心臓マッサージはしないことですでに意見が一致していたのです。
しかし、フロリダから飛んできた長女を待ってもう一度家族との話し合いを求めてきたわけです。

私はBさんのこれまでの経過のまとめと今後の治療の選択肢を説明しました。
長女は涙ながらに教えてくれました。Bさんがまだ元気だった時家族で行われた話し合いのこと。自然に任せて自分の死を神の手に委ねたいと語っていたこと。こうした話し合いは何年にも渡って何度も何度も繰り返されたこと。自分たちはさよならを言う準備が出来たこと。
元々涙もろい私は思わず目頭が熱くなりました。その間何度もポケベルが鳴りましたが、1時間以上に渡りこの話し合いは続けられました。

そしてその夜私はBさんのドーパミンを止めました。苦痛を緩和する治療以外は自然に任せる方針になったからです。
血圧は下がり危険な状態は続きましたが、この話し合いの結果を医療倫理チームに報告し、彼らはBさんにホスピスを準備したのです。

米国では多くのご老人が自分の死について明確な意見をお持ちです。ご家族、医師らはそうした意見を一番に尊重しますが、時にはとてもつらい選択をしなければなりません。研修終了と同時にほとんどの研修医が開業するこの国では研修医の患者への責任が学年ごとに増していき、来るべき実社会に備えるのです。


山前浩一郎

 

 

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