皆さんこんにちは。
院長がなぜ老年医学の道に進むことになったのか、きっかけとなる研修を受けた後のエッセイです。
アメリカだより14:魅せられた老年科(2005年9月)
皆さん、こんにちは。ピッツバーグの山前です。
今回はつい先日まで研修していた老年科について話したいと思います。
まず、皆さん老年科って余り馴染みがないと思いますがいかがでしょうか?老年科は内科もしくは家庭医療の研修を終了した医師が更に学ぶことの出来る専門分野です。日本では大学病院で老年科が標榜されているところは数えるくらいしかないと思いますし、地域の病院や開業医が老年科を謳っていることは非常に希でしょう。
アメリカでも老年科は新しい科でまだ30年程しか歴史がありません。老年科の先駆者達はイギリスで学んだそうです。
さて、そんな若い老年科は何を目指しているのか。それは人生の質を向上させる、その一点にあります。
決して寿命を延ばすのが目的ではありません。年齢を重ねるに連れ、患う疾病も増えてきます。当然色々な専門医を受診し必要な薬も増えます。また、自然と各臓器の機能が低下してくるために若い人には起こらない問題も起きます。記憶力の低下は自分で金銭の管理が出来なくなりますし、下肢の筋力の低下は歩行を困難にし、買い物が出来なくなり体重が減少してしまうかもしれません。すると骨粗鬆症が進行し、骨折により寝たきりになることもあります。
このように高齢に伴う問題は数多くあります。そのような医学的にも社会的にも一人の患者さんをサポートするのが老年科の医師です。この発想は家庭医療的で私は大好きです。
さて、その老年科の診察がまた素晴らしい。再診の方は一人30分。初診の方はなんと60分かけて診察します。毎回頭の先からつま先までくまなく診察するのはもちろんのこと、健康面、家庭のこと、趣味のことなどありとあらゆる事を話すのです。また、初診時はもちろん、必要があれば医師以外にソーシャルワーカーが面接します。
これだけしっかりとしたケアを提供出来るのはやはりアメリカならではなのでしょう。残念ながら日本では無理かもしれません。1日10人の患者さんを診察するだけで経営が成り立つようにするのは至難の業です。
老年科の部長が言っていました。日本は世界でもっとも高齢化が進んでいる国なので、我々(アメリカ)の未来がそこにある、と。そんな日本で世界に誇れる老年科が確立する事を祈っています。
山前浩一郎